私は、SEXについて考えることを避けている。
はしたないから、という理由ではない。
むしろ、私は男共がふっかける下ネタにいくらでもノってしまうバカだ。ただの冗談なら、口だけなら、いくらでもどこまでも際限なくできる。


でも、めったにないが、実際にそういう機会が生じてしまう(つまり、SEXに誘われる)と、ドン引きしてしまう。
「何言ってんの? こいつアホちゃうの?」と思い、さっきまでのノリのいい自分の会話を忘れて、冷たく固まってしまう。


それは、対男だけでなく、対女の場合でもだ。
女性の場合は、男性よりもバリエーションが豊富であるけれども、どれに対しても、じつは私は“違和感”を感じている。
「好きな人としかしたくないわ」という純愛少女の女性に対しても、「好きなら、他人の彼でも抱かれたい」という欲望に忠実な女性に対しても、「恋愛抜きにカラダだけの関係もラクでいいじゃない」という割り切り大人の女性に対しても。
真面目にSEXについて考えると、どうしても世間の価値観とズレを感じてしまうのだ。


ここで、一冊、ご紹介しよう。
現代の女性の"真実"を表しているとして、人気の漫画『臨死!!江古田ちゃん』。
部屋の中を裸でいることをポリシーにしていたり、昆虫をペットにしたりして、ちょっとヘンな女の子、江古田ちゃんの私生活の様子がおもしろい漫画だ。


でも、作者やファンには申し訳ないのだけど、私はこの漫画が好きではない。正確に言えば、主人公の江古田ちゃんがイヤ。自分の友だちに絶対欲しくないタイプなのだ。


なぜなら、江古田ちゃんが好きでもない男とすぐに寝ちゃうからだ。
例えば、こんなシーンがあった。
男受けする女の子(江古田ちゃんは「猛禽」と命名)が彼氏と仲良くいちゃつく様子を見て、「私もこの子と同じくらい幸せでもいいはず」と、その彼氏とHをする。


え〜! それってどうなの? と私はぶったまげた。
単なるモテる同性への嫉妬で、人の彼氏と寝るとは……。誘われたからといって、彼女以外の女の子とやっちゃう男もどうかしている。
「今時の子」と言えば聞こえがいいが、単なる寂しがり屋の欲しがり屋でしかないと私は思っている。


誤解のないように言っておくが、私が問題にしているのは、モラルではない。
江古田ちゃんの幼稚さ・短絡さが問題であり、正直コワイのだ。


なぜ短絡的で幼稚だと思うのか。
確かにその男の子は、彼女の所有物ではないから、彼女以外の人とSEXするな、という権利はない。 また、他人の彼女であっても、対象が魅力的ならば、カラダを合わせたいという欲求が生じるのは心理上ありうる。
さらに生物的な事実を言えば、好きでもない相手とSEXしても快感は得られる。そういうふうに人間のカラダはできているから。
だから、最初に紹介したいろいろな女性の意見は全部正しい。


でも、何か足りない、欠けている。
そう、人と人とが真摯に向き合う関係性が欠如しているのだ。
そして、そのショートカットした“接触”によって生じる、<リスク>を考えていないのだ。
愛なくして快楽だけで性行為をすることを一概に「悪い」とは片付けられないが、それによって誰かが傷つくリスク、何か大切なものを失うリスクなどがあることを忘れていると私は思う。
そんな「覚悟なし」「考えなし」で行動することが、私が江古田ちゃんに嫌悪感を持ってしまう理由なのである。
また、世間のSEX観とのズレも同様で、生物的欲求(SEX)と心理的欲求(好きとか寝てみたいという好奇心)と社会的欲求(人の彼氏という関係性)のどれか1つにしか焦点を当てていないように思える。そのことが、私にモゾモゾとした座り心地の悪い違和感を感じさせてしまう正体だ。


臨死!!江古田ちゃん(1〜3巻)

臨死!!江古田ちゃん(1〜3巻)(コミック)
著者:瀧波 ユカリ
出版社:講談社
ISBN-10:4063145069
ISBN-13:978-4063145069
発売日:2008/5/23(3巻)
価格:550円(税込)

ところで、同じように奔放に男遊びをしても、イヤだと思わない本もある。
『少女七竈と七人の可愛そうな大人』は、私の大好きな小説だ。
「辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った」と、強烈な書き出しのこの小説は、今までの生活を捨てて、男遊びを始めた女性の話で幕が上がる。
彼女は小説の中で「こころのかたちを変えるのに必要なのは、男遊びなんじゃないかと私はとても生真面目に考えた」と述べている。


間違っているのに、何だか切なくて哀しい。
なぜだろう。
それは、彼女は報われない恋を忘れるために、男遊びをしているから。考える暇をなくすため、「恋なんて所詮こんなもの」と認識させるためにしているから。
その不器用さが哀れだ。
もう1つの理由は、彼女はきちんとリスクを負っているから。彼女は奔放な性を手に入れるために、仕事(教師だった)も家族(父と二人で暮らしていた)もなくしているのだ。


不実な性愛は、今までの世界を壊す覚悟がいる。
何だか私らしくなく、偉そうなことを書いてしまった。
結局のところ、私はそんな覚悟を持つような器がないので、性に保守的な人間でいられるのかもしれない。


少女七竈と七人の可愛そうな大人

少女七竈と七人の可愛そうな大人(文庫)
著者:桜庭一樹
出版社:角川グループパブリッシング
ISBN-10:404428105X
ISBN-13:978-4044281052
発売日: 2009/03/25
価格:540円(税込)
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天野里美
天野里美
(編集者)
本と動物とおいしい料理が何よりも好き。愛猫ジャイロと歳下の猫的草食系男子と快適&自由に暮らしている。いつの間にか増殖している本の置き場が悩みの種である。