「これ以上金払ってまで勉強させられたくない」
という理由から就職を選んだ私だったが、
ライターになりたいと考えた時、どうして良いか分らなかった。
入試を必要とする大学や専門学校は、金銭的にも拘束時間的にも、そして学力的にも難しい。そこで、「第一線で働いている編集者が講師」と銘打たれたライター養成所へ、2年間かけて貯金した50万円をつぎ込むことにした。


高校卒業後、上京したいが貯金もないし、料理も出来ないことから、「給料もらって料理が覚えられる」という理由で某大手メガバンクの社員寮に住み込みで働く“給食のおばさん”だった私だ。ライターへの転職を望むような「甘さ」は持っていたが、さすがに「学校に行けばライターになれる」とは思ってない。
「現場で働いてる編集者」と知り合うために50万円払ったのだ。


講師が編集者であり「教員でない」こともあり、授業の内容にはばらつきがあったが、好印象を残すために一生懸命メモを取り、勉強しているフリをしていた。


ところが、その日の講義はとても興味深かった。


「皆さんは今、どこかに就職していますか?
ここにいらっしゃっているということは、ライターを目指しているのだと思います。ライターというのは、事務所に入ることもありますが、今勤められているような社会的信用が全くない“フリーランス”になることが多いと思います。
あなたがどんなにマジメに働いていても、どんなに良い仕事をしても、常に一定の収入を得るのはもう難しい、と考えてください。始めたばかりの頃は仕事がないのも当然と考え、貯金でなんとかしようと思われるでしょう。しかし、ライターというのはどんなにベテランになっても、仕事量の増減はあるものなのです。これは大げさではなく、収入が全くない、ということが半年続くなんてもこともあり得るのです」


フリーランスというのは、どこにも属さず、自分で仕事をしている人のこと。「個人事業主」といえば聞こえは良いが、仕事がなければタダの無職なのだ。
ある程度の不安定さは予測していたが、改めて言われると自分の進路を疑いたくなった。


「そこで、今、定職についていらっしゃる間に、是非やっておいて欲しいことがあります。それは、クレジットカードの契約です。できればそんなものに頼りたくない、闇金と同じだと嫌悪される方もいるでしょう。しかし、生活できなければ仕事もできないのです。必ず訪れると分かっている波に飲まれて、仕事を諦めないために、今出来ることをしてください。借金が膨らんで、その後生活が苦しくなっても、誰のことも恨めませんし、そうならないとは約束できません。けれど、あるとないとでは大違いです。フリーランスになってから、仕事の谷に襲われてあわててクレジットカードを作ろうと思っても作れません。最初に申しました通り、フリーランスは社会的信用が全くないんですから」


「第一線」の声はリアルだった。


私は授業の帰り、そのままセゾンカードのカウンターを尋ね、保険のつもりでクレジットカードを作った。
しかし、そのわずか3ヶ月後には満額ローンでMacintoshを買った。
保険意味なし。


《セゾン》カード

《セゾン》カード(クレジットカード)
西武デパート系列のクレジットカード。提携ブランドはVisa、Master、JCB、アメリカンエクスプレスなど。「永久不滅ポイント」を売りにしている。

雑務が立て込み休日出勤がこのごろ慢性化している。
生活を立てるための仕事に加え、自費出版レーベル「アドベンチャーブックス(http://www.tokyo10-45.com/books/)」の大博打まで打っているんだからムリはない。
その日は、事務所のシェアメイトであり自費出版事業の“著者”オオヤギくんが遅刻して来た。


「やー、すまんすまん。どえらい番組やっていて家出れなかった」


番組のあらすじはこうだ。


埼玉で購入したマンションのローン返済が苦しくなり、自治体が行っている「北海道で田舎暮らし」の企画に応募した50代過ぎの父。女ばかりの娘6人に妻と暮らすも父はリストラ。北海道での居住地のローン返済も滞り、とうとう請求は保証人の元へ。


「それでさぁ、おとうさんグーで殴られんの。
 保証人の元上司に、大人なのに」


北海道には仕事がないと家族は埼玉へ移住。父は土方などの職業に就くが「棟梁と馬が合わない」「オレにもプライドがある」と再就職自体をドロップアウト。仕方なく娘2人は高校を中退。フルタイムアルバイトをすることで家計を助け、母と協力してお金を集めるとその額約50万。 娘達の人生の値段ともいうべきそのアルバイト代を手に、父がつぶやいたセリフが「もうちょっと欲しいかなぁ」。
更に! 50万円もあれば払えるはずの借金も、埼玉へ来てから一度もローンの支払いを行っていないことが発覚。元上司二度目の殴り込み、そして6人の娘を残して母は無言の疾走……!(又聞きなので実際と少し異なるかもしれません)


「ヤベー、これでどうやって決着すんだろうって思って、
 最後まで見てたら、そのまま終わった……」


臨場感のあるあらすじの説明と最後のオチには背筋が凍りついた気がした。
同様にある種の興奮を隠せないオオヤギくん。


しかし、一緒に聞いていたはずのお手伝いスタッフのネモキンくんは涼しい顔だ。


「へー、すごいっすね。」


そしてオオヤギくんは間髪入れずにこう言った。


「だって、他人事じゃないよ!」


分かる。実際にその番組を見ていないけれど、その興奮はとっても分かる! だって、そのおとうさんの姿は20年後の自分である可能性だって否めない。この出版不況が叫ばれるご時世に、自費出版だ。家族を築けただけでもおとうさんの方がマシかもしれない。


ていうか、ネモキンくん。
君は定職にだって就いてないじゃないか!


そんな運営自体も“アドベンチャー”な自費出版事業“アドベンチャー・ブックス”!
見て見ぬ振りして絶賛運営中で〜す。


ザ・ノンフィクション・漂流家族 〜竹下家の9年・埼玉編〜

ザ・ノンフィクション・漂流家族 〜竹下家の9年・埼玉編〜(テレビ番組)
放送日時:2009年6月4日13:45〜14:45
テレビ局:フジテレビ
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コヤナギ ユウ
コヤナギ ユウ
(yours-storeダイヒョー)
イラストレーター・デザイナー・プランナー、株式会社yours-store代表。趣味が趣味に留められず「始めることが大切」と見切り発車し、「続けることがいちばん大切」と雪だるま式に人を巻き込む。登山とカメラが今の趣味で雑誌マニア。社会科見学先でハンカチーフを集めている。
エッセイ:i REwrite you!